「岐阜県の最高峰,笠ヶ岳の生い立ち」-周辺の地質とともに-
信州大学理学部地質科学科教授 原山 智
<”県内最高峰”笠ヶ岳>
岐阜県内には数々の名峰や高峰がひしめいているが,その多くが周辺諸県との境界に位置しており,岐阜県が山頂を独り占めできる山としては笠ヶ岳(標高2897.5m)が最高峰になる.笠ヶ岳はどの方面から見ても秀麗だと思うが,立山など北の方向からの山容,とりわけ雲ノ平から黒部乗越の鞍部のむこうに凛としてそびえ立つ姿には,いつもほれぼれとした思いにさせられる.
<私の原点−笠ヶ岳>
1973年に卒業論文の予備調査で,初めて笠ヶ岳に登った.今ではほとんど通る人もないクリヤ谷コースの長さに驚いたが,翌春からはそのコースが卒業論文調査の通学路となる.対面する槍穂高連峰に登れば,笠ヶ岳の東面の崖にはほぼ水平で明瞭な縞模様が見て取れる.この縞模様の実態を探るのが,卒業論文の私のテーマであった.笠ヶ岳は私の研究の出発点であり,青春の思い出の山である.
<水平な縞模様の謎>
約5年がかりの調査を経て,笠ヶ岳の山体を作る地質は白亜期末のカルデラ火山によってできたものであることが明らかとなった.二重の陥没構造を有する典型的なピストンシリンダー型のカルデラ火山で,カルデラ内には厚い火砕流堆積物と溶岩が繰り返し堆積した.この繰り返し堆積した火山噴出物の層が,その後の北アルプスの隆起に伴って激しく浸食され,笠ヶ岳の東面に現れたのが縞模様の実態であった.新穂高ロープウェイから望む縞模様は,かつてのカルデラ火山の1500mにも及ぶ断面を示
しているのである.
<8/5講演予告>
恐竜が絶滅した約6500万年前,アジア大陸の東縁部に位置していた岐阜県内には多数の火山が活動していた.濃飛流紋岩類と呼ばれている火山岩は,当時の火山活動の産物としては日本を代表する岩体で,岐阜県下を中心に約5000km2にも及ぶ広大な面積を占めている.笠ヶ岳コールドロン(陥没カルデラ)は,濃飛流紋岩に隣接する同時期の火山で,いわば弟分にあたるといえよう.分布面積こそ小さいが,起伏の激しいアルプス地域に位置しているために,陥没カルデラの内部構造が実に良く露出している.このようにカルデラ火山の地下部分が地表に露出し,内部構造をくまなく観察できる例は世界的に見ても珍しいと言える.8月5日の講演では,撮りためた自慢のスライド写真をお見せしながら,皆さんと共に笠ヶ岳の生い立ちの謎に迫りたいと思う.
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