益田郡萩原町  ホーム 目次

飛騨の寒風・益田風(ましたかぜ)



益田風の吹く萩原町中呂
 

 飛騨南部、益田郡(ましたぐん)萩原町(はぎわらちょう)は風の強い町です。同じ飛騨でも風の弱い高山盆地周辺とは対照的です。この付近では、北寄りの寒風が秋から春にかけて吹くことが多く、特に2〜3月にはほとんど毎日吹きます。この北寄りの風を地元では「益田風(ましたかぜ)」と呼んでいます。
 益田風が吹くときは、たいてい晴れています。風速を測定してみると、もっとも強い萩原町中呂付近で毎秒8〜12m程度です。この風速だと、風上に向かって歩きにくい感じです。
 さて、益田風はなぜ周囲を山に囲まれたこの地域に吹くのでしょうか。第1に飛騨全体の地形の影響があります。この風は、北は萩原町上呂から南は下呂町に至る北北西から南南東に細長い谷の中に吹きます。山ひだを通過した北寄りの風は、この直線状の谷に集まるため、ちょうど水道の蛇口をしぼると水が勢い良く出るように風も強くなります。谷の長さは約20km、幅は萩原地区で最も広くて2km程度です。
 第2にもっと小さな地形の影響があります。直線状の谷の北部は弱風域ですが、ここが集風域となり、いっきに谷の中ほど、萩原地区へ吹き出します。また、最強風域は萩原地区のさらに南の中呂です。ここは谷幅が部分的にせまくなっています。そこに吹きたまった風が南方のやや広い場所に吹き出すため、さらに風速が大きくなります。ちょうど禅昌寺というお寺があるため、中呂の風を特に寺前風(てらまえかぜ)と呼びます。
 このほか、晴天の夜間に山地斜面で発生した冷気流が、この谷に吹き出してくることがあります。冷気流の場合、陽が高くなる午前9時ころ止みます。そして冷気流型のときは、まわりの山の高さ(上空1,500m付近)の風向は西寄りであることが多いのですが、他の場合は、西寄りから北寄りまでさまざまです。北寄りの上空の風が吹き降りる「おろし型」の益田風があるかどうかは、今後の調査が必要です。(中田 裕一)