寒気をもたらす笈破霧(おいわれぎり) |
大洞山(1348m)にかかる笈破霧(飛騨神岡高校より) |
「笈破霧(おいわれぎり)」は、春先に特に多く見られる現象で、神岡の町中の西里橋付近や、段丘面の小萱付近から、北の方角に見えます。ちょうど二十五山、大洞山方面以北の山の中腹以上の稜線に覆いかぶさるように現れる雲です。 神岡の市街地から見て二十五山の山向こうは、今では廃村となった笈破がありました。下から見ると雲ですが、山中に入ることの多かった昔の人は、深い霧なのでこのように呼ぶようになったと思います。 アンケート調査によると、笈破霧が出ると寒気の前触れであり必ず寒くなります。ちょうど梅雨季から初夏にこの雲が頻繁に現れると、作物の生育が心配になるといいます。また、その年は雪が多いともいいます。 実際、古くから二十五山に霧が発生すると農作物が不作になるため、山頂に二十五の菩薩にみたてた石が祀ってありました。その後、江戸時代になって、貞亨の頃(1684〜1687年)、奇僧円空が、二十五体の菩薩を作り山頂にお祀りしました。二十五山で霧に迷う伝説もあります。 笈破霧発生時の天気図を見ると、低気圧通過後、または南岸に停滞前線のある場合がほとんどです。このとき寒気があると、北からの冷たく湿った気流が吹きます。この寒気が、飛騨越中国境付近で山々にさえぎられ帽子雲となったものが笈破霧です。冬型気圧配置も湿った寒気をもたらしますが、この場合は神岡付近は全面的に雲の下になり降雪や降水になります。 神岡各地の気温観測によると、笈破霧発生とともに気温は実際に低下します。また笈破霧の北側の茂住では日中の気温上昇がにぶいのに対し、南側の小萱は日が当たるため気温が比較的上昇することもわかりました。このとき飛騨北部と南部の気温差も大きくなり、飛騨中部まで寒気が進入しているといえます。(中田 裕一) |