益田郡萩原町  ホーム 目次

たつみ風と益田造り


萩原町上村の益田造りの家 

 JR高山線に乗っていると、金山町から下呂町、萩原町にかけて今でも「益田造り」の家を見ることができます。益田造りは、背の高い白川郷の合掌造りに対して益田地方中心に飛騨地方に分布する背の低い家の造りで、屋根が大きく軒が低い2階建ての造りをしています。屋根の形は「切り妻」といって、屋根の両端が「へ」の字型になっています。また屋根の妻側は、「雨覆い(あまおい)」という外壁があるため二重の壁となっています。屋根材は、クレぶきでしたが益田地方では瓦ぶきです。この造りは、益田地方で最もよく目立ち、その風土にも適応しています。
 益田地方を含む飛騨南部の風土の特色は、第1に冬の積雪が少なく、屋根の雪おろしが不用だということです。第2に益田地方は、春から秋にかけて多雨地帯となります。第3に、この地方は、北寄りの風、益田風が吹きます。これに加え台風による南寄り風が、益田地方では北飛騨以上に恐れられています。それは、台風の南寄りの風が、南北に細長い谷向きと一致したとき屋根を吹き飛ばす大風になるからです。
 台風による大風は、「たつみ風」といって昔から恐れられていました。昭和30年代くらいまでのことですが、益田地方では、台風が近づいて生暖かい風が吹き始めると、「風切り鎌」を立てる風習がありました。長い竹の先に鎌を縛り付け、刃の先を風のほうに向けるものです。風よけのおまじないで、昔は益田地方以外(たとえば富士山麓)にもあった風習のようです。
 益田造りの家の向きは、妻側を南北に向けないようにしてあります。たつみ風のとき、屋根が吹き飛ばされないためです。屋根が低いのは、たつみ風をかわすためです。雨覆いは、雨風が隙間の多い屋内に入るのを防ぐ役目があります。広い2階は、養蚕がさかんなころ必要なスペースでした。(中田 裕一)