ひだ・みの 活断層を訪ねて21  ホーム 目次

跡津川断層12 トレンチ掘削で調査


トレンチ掘削調査の断面、FF’間が断層の境界=飛騨市宮川町野首
 
 跡津川断層の活動史を解明するために一九八二年七月下旬〜八月上旬にかけて旧宮川村野首地区で、跡津川断層トレンチ掘削調査が、跡津川断層発掘調査団(東大・愛知県立大・京大・富山大・東北大などの研究者で編成)によってなされた。
 当時、飛騨地域の火山灰層の調査研究を行っていた関係で、たまたま指導を受けていた富山大学の小林武彦先生から、「トレンチ現場で火山灰調査を担当するので参加しないか」との誘いがあって出かけた。写真はそのとき撮影したものである。火山灰層のいくつかは、降下堆積の年代がわかっており、これを利用して断層の活動史解明の手掛かりを得たいというのが調査の目的であった。
 トレンチは、比高約五bの低断層崖に直交する方向で、幅九b、長さ二十三b(上端部分)、最深部の深さが約十bという規模で掘られていた。夏の盛りで穴の中は風通しが悪く、とても暑かった。しかし、さまざまな出来事を記録している跡津川断層の見事な露頭の前に立つと、流れる汗すら爽快に感じられるほどであった。トレンチ現場は高揚感に満ちていた。
写真は、断層断面の東面を撮影したものである。断層の左(北)側の白い部分は、基盤の花崗岩で相対的に隆起(上昇)した。一方、断層の右(南)側は、下位に「れき層」があり、その上に何層かの砂層や腐植層(過去の地層の表面部分)が堆積しており相対的に沈降(下降)したことを示している。
 また、断層の垂直運動に伴い、断層南側の「れき」や地層が北側の岩盤(花崗岩)に引きずり上げられている様子が見てとれる。つまり写真を見ると、はしごの左右にある地層の水平境界線等は、断層近くで左上方向に引きずられ曲がっている。
 炭素一四法の年代測定(地層の炭素から年代測定)からは、最新活動である飛騨地震(一八五八年)を含め四回の活動歴が明らかにされた。そして、この後この断層の研究は、一層盛んになっていく。
(下畑五夫・飛騨地学研究会会長)2005年3月12日