ひだ・みの 活断層を訪ねて22  ホーム 目次

跡津川断層13 地震前に「ガス」放出


断層ガスの観測地点付近、山のくぼ地は断層鞍部(ケルンコル)
=飛騨市河合町天生
 
 地震活動に伴い、活断層に沿って地中からヘリウムや水素ガスなどが放出される例がいくつか知られている。たとえば一九六五年〜六七年にかけて群発地震の起きた長野県松代で、断層上のヘリウムガスの濃度が三五○ppm以上の高濃度を記録した例がある。
 このように、断層から放出されるこれらのガスを一般に断層ガスと呼んでいる。吉城高校地学部は、二○○一(平成一三)年四月から九月にかけてほぼ毎日、跡津川断層上の飛騨市河合町天生地区において、地中から放出される水素と二酸化炭素濃度の連続観測を行った。その結果、五月に断層近くで発生した微小群発地震のおよそ二週間前に、高濃度の水素ガスの放出を観測し、一週間前からは、二酸化炭素の急激な減少を観測した。
 この観測期間内で、跡津川断層周辺で発生した目立った地震活動はこの一回だけであり、この一例からすべを結論づけることはできない。しかし、このように跡津川断層でも地震活動に関連したと思われる水素ガスの放出が確認された。
 東京大学大学院の田中秀実講師を中心とする研究グループは、室内において岩石や鉱物の粉砕実験を行い、水素ガスの発生メカニズムを確認した。その結果を踏まえ、二○○四(平成一六)年一○月より、飛騨市宮川町三川原地区において掘削されたボーリング孔を利用し、跡津川断層破砕帯で生じている水素ガスの発生過程や、地下水の性質の変化等を解明しようとしている。
 断層ガスとして有名なものに、他にラドンがある。ラドンは放射性ガスとして知られ、日本中の多数の観測点で地下水中、大気中、トンネル内での濃度が測定されている。また地震活動との関連が調べられている。
 跡津川断層を研究対象として、このような断層ガスや地下水の観測のほか、微小地震、地殻変動、自然放射線、地電流観測などさまざまな研究が行われ、活断層の特徴が徐々に明らかにされている。
(寺門隆治・飛騨地学研究会会員)2005年3月19日