ひだ地学92号 2001年12月12日発行 ホーム 目次

飛騨国の火山・地震そして温泉

新ひだ風土記ー(その1)

下畑 五夫

 日本列島は、しばしば火山国・火山国あるいは温泉国と表現されることがある。確かに、ここ近年、火山についていえば、北海道有珠山さらには、三宅島の噴火が続き、地震についていえば阪神淡路大地震、鳥取県西部地震などその事例には事欠かない。まして、かなり関わりが出てくるであろう東海地震発生までの時間がかなり迫ってきたという感じもする(2004年春)という説もある。また、温泉については、日常的に私たちとの関わりがある。
 これら火山・地震そして温泉は、地学的にみれば決して無関係な存在ではなく、むしろ密接な関係ある。さて、祖先や私たち自身が日々生活を送ってきたこの飛騨の地。火山・地震そして温泉とどのように関わって生きてきたか、また、現在どのような状況なのであろうか。
 さて、飛騨には、江戸時代や明治の初めに書かれた『飛州志』および『斐太後風土記』という優れた地誌が残されている。これらの本の魅力に惹かれ、これらをベースにして『新ひだ風土記』という本を綴ったことがある。今回は、その中から特に、火山や地震そしてこれらと密接な関係にある温泉について、そのごくごく概略ではあるが、飛騨の風土の中にたどってみたい。

【第1話】  地震風土記

〔T〕飛騨の過去の地震をたどる
@飛騨北部を中心に大災害をもたらした安政飛騨地震(飛越地震)
    安政5年2月26日(1858.4.9)
  ◇ 『斐太後風土記』の記述
@)アトリ群飛・・・ 斐太後風土記 巻之十四 吉城郡小鷹狩郷角川村
*動物の異常行動・・・宏観現象、前兆現象、
*地震の予知・・・なぜ予知が望まれるか、予知の意味、予知の根拠
A)一之瀬仰天網・・・斐太後風土記 巻之十四 吉城郡小鷹狩郷杉原村
*地震災害は天災?それとも人災?・・・災害の意味を考える
B)小豆澤口関屋跡・・・ 斐太後風土記 巻之十四 吉城郡小鷹郷小豆澤村
*奈威(な)ゐ・・・地震を示す古語(やまと言葉)
*地震という言葉の意味・・・揺れ、揺れの度合い、揺れの範囲、発生位置
A天正飛騨地震 天正13年11月27日(1586.1.16)
◇ 『飛州志』の記述
@)帰雲城・・・ 飛州志 巻第六 古城部
A)鳳慈尾山大威徳寺跡・・・ 飛州志 巻第八 温古部 寺跡
◇ 『斐太後風土記』の記述
@)帰雲山古城・・・ 斐太後風土記 巻之九 大野郡白川郷保木脇村
B飛騨の過去の地震:参考:「丹生川村史自然編」に記載

〔U〕地震の科学と防災
@ 地震現象
@)震動の原因・・・ 地殻の破壊、断層、活断層
A)破壊の原因・・・ プレートの運動、マントル対流
A 地震災害の軽減(防災)
@)地震の発生を防ぐことはできない。それでは?
A)心の準備・・・飛騨は、どのような状況の下にあるか
      過去の様子・・・活断層は地震の記録簿
     *高山周辺; 江名子断層・原山断層・牧ヶ洞断層・宮峠断層
   *飛騨北部; 跡津川断層・数河断層
      *その他; 阿寺断層・御母衣断層・三尾河断層
 【例】 江名子断層・・・活断層
* 滝町から宮村まで約13q、南西方向への延長は大原断層に繋がる。
* 幅の広い破砕帯を伴う。山口谷付近で最大150mに達する。
* 垂直変位(中心部で南側隆起最大300m)水平変位
(右水平ずれ、最大500m)
* 断層地形:河川・尾根の屈曲、断層鞍部、断層凹地、湧水湿地、
三角末端面等
*江名子断層と宮峠断層の活動により位山分水嶺が誕生。およそ150万年前
→旧宮川上流部が、ほぼ180度向きを変え飛騨川水系に流れるようになる。

B)手だてを講ずる

   【第2話】  火山風土記

〔T〕飛騨も、火山国
@ 火山といえば焼岳
  名は、硫黄嶽・・・『飛州志』巻第壱 嶽の項;焼岳の名なし   
B どれが焼岳、硫黄嶽?・・・『斐太後風土記』 首巻 諸嶽;両方の名あり  
  飛騨人は、お人好し
A 他に火山は・・・『飛州志』および『斐太後風土記』の記載
* 1979年10月28日5:20頃 噴火した御嶽
* 飛騨地学研究会: 火山灰調査を実施
* 乗鞍・白山などは? 火山とどのように判断?

〔U〕乗鞍岳は、活火山
@ 飛騨の乗鞍・・・なぜ加賀の白山、木曽の御嶽? 乗鞍は飛騨の山(写真)
アルプスはどこにある?
A 乗鞍岳の名の由来 ・・・・ 緩やかな裾をひく円錐形     
B『飛州志』に記された乗鞍の様子・・・『飛州志』巻第四 神祠部 騎鞍権現
C 活火山・死火山とは? 休火山とは?
D 乗鞍岳は、活火山・・・他の記録 (資料:丹生川村史?)
E 乗鞍岳の歴史   
 
〔V〕飛騨の活火山ー焼岳・乗鞍岳・御嶽・白山ー
@焼岳(硫黄嶽)
  @)ゴツゴツしたドーム状・・・溶岩円頂丘
  A)活発な最近の活動
◇ 最初の記録1585年、水蒸気爆発で火山泥流発生家屋の埋没300余
                        ひだ地学92号(P4)
◇ 1907年から約30年にわたり活発な活動を繰り返す。
特に
・1911年: 山頂に新火口(インキョ穴))
・1915年(大正4年):大正火口形成、泥流流出し梓川を堰き止める。
大正池
・1925年:活発な噴火
・1962〜1963年:噴火、泥流流出
    ◆ 有史時代は、溶岩・火砕流流出の記録なし。火山灰・泥流の発生のみ。
 A 白山
第1期:加賀室火山 約30〜40万年前
第2期:古白山火山 約10〜12万年前
第3期:新白山火山     〜 有史時代
                706年から1659年まで9回の記録有り
B 御嶽
第1期:約20万年前 大きな成層火山形成  長い休止期で開析
第2期:8〜3.5万年前
第3期:3.4〜2.7万年前
第4期:2.3〜1万年前

〔W〕飛騨の盆地と火山活動
  ◇ かつて高山盆地へ火砕流が
  @)甚大な災害を起こす火砕流(熱雲)
   A)丹生川火砕流と上宝火砕流
  【例】上宝火砕流堆積物:露頭ー 数河の生井採石場
    天堤町では、「ウンバ砂」と呼んでいる。
* 『飛州志』巻第壱 石の性品の項に、○優婆金石 大野郡大八賀郷ノ村里
に多シ色ニテ水晶砕ケタル如キノ砂ナリ
  溶結凝灰岩(流紋岩質)多孔質で加工しやすいため、石材として採掘さ
れてきた。
  斜長石・石英・黒ウンモの結晶片からなる。
  平坦な火砕流台地地形を残している(例:小八賀川北の八本原など)
  噴出源:上宝村福地の南、貝塩
  年代:約65万年前

◇ 飛騨を覆った火山灰・軽石

【地層名】 【年代】 【主な鉱物】
AT(姶良火山灰層) 2.2万年前 火山ガラス
DKP(大山倉吉軽石層 4.4 万年前 角閃石・シソ輝石
町方ローム層 古土壌
高山層 34±5万年前 黒雲母・石英
広殿層 40万年前? 角閃石・シソ輝石

下  *「飛騨のテフラ」;下畑五夫(63年)『飛騨の大地を探る』より
                         (第2話 温泉風土記につづく)