ひだ地学83号 2001年3月10日発行   ホーム 目次

夏季晴天日における笠ヶ岳周辺の
気温・相対湿度と風の日変化

中田 裕一

 
(1) はじめに
 1999年の夏季に笠ヶ岳とその周辺4ヶ所、2000年の夏季に笠ヶ岳4ヶ所、黒部五郎岳4ヶ所に、気温と相対湿度の自記記録センサーを設置した。これらのデータからわかったことは、夏季晴天日の気温と相対湿度の変化パターンは高度によって異なることである。(中田、2000)。今回、笠ヶ岳4ヶ所の気温・相対湿度の日変化と、山麓の栃尾のアメダスデータによる風の日変化を比較したところ、気温・相対湿度が山谷風に関係していることがわかったので報告したい。
(2) 観測の概要
 センサーの観測地点は、図1に示すA、B、C、Dの4ヶ所である。Aは標高2,898mの笠ヶ岳山頂、Bは標高2,450mの杓子平入り口、Cは標高2,050mの笠新道途中の斜面、Dは標高1,370mの笠新道入り口の谷底である。また、栃尾のアメダス観測所は、図1のE地点(標高765m)である。
 データはセンサーが10分毎であるので、栃尾の気温データも10分毎を利用した。栃尾の風のデータは1時間ごとに比較した。今回は、各地点の相対湿度が100%近くから40%程度まで大きく変化する晴天日のうち、典型的と判断した1,999年7月31日のグラフを用いて説明する。
  
(3) 気温・相対湿度と風の日変化の比較
 図2は、1999年7月31日の各地点の気温と相対湿度の日変化、および栃尾の気温と風の日変化である。
図2から次のことがわかる。
@ 明け方6時ころまではどの地点も単調に気温が低下した。しかし気温の上昇を開始する時刻は地点によって異なる。谷底のD地点は8時ころで最も遅く、次が栃尾E地点で7時ころである。他は6時ころに気温が上昇し始めた。その結果、午前7〜8時の間、谷底のD地点とその上の観測点C地点の気温が逆転した。その後、9時以降、16時までの間、山頂のA地点からB,Cの3地点の気温は接近していて、グラフの所々で気温が逆転した。
A 相対湿度は、A,B,C地点とも朝6時ころから急激に低下しているのに対し、D地点のみ低下開始時刻が8時以降にずれ込んだ。また各地点の湿度は午前中の差が大きい。
B 栃尾の風のデータは次のようである。夜間は北〜東寄りで風速1〜2m/sの風または無風である。昼間は、西〜北西寄り、風速1〜4m/sの風である。昼間は夜間に比べ風が強い傾向にある。
 以上のデータをお互いに比較すると次のことがわかる。
@ 昼と夜で風の傾向が異なる。昼は谷風、夜は山風が吹いていた。(他の晴天日でも共通のパターンを示す。)
A D地点は、他地点に比べ朝方の気温の上昇開始時刻が遅く、同時に相対湿度の低下時刻が遅い。遅れた朝6時〜8時の間、C地点との間の気温が逆転した。
B D地点の湿度は、朝方から気温の逆転していた時刻まで100%(センサーの最大値は99%)であった。
C 風のデータから、栃尾で山風から谷風に転換した時刻が、逆転の終了する時刻、8時すぎとほぼ一致する。
D 谷風から山風に転換した時刻は16時すぎである。この時刻を境に、それまで接近していたA、B、C地点の気温が標高に応じて離れ、各地点の気温差が大きくなる。

(4) 考察
 栃尾E地点での山風と谷風は、蒲田川約10km上流のD地点の風を代表すると考え次の考察を行った。
@ 山風は谷底に沿って流れる冷気流であるため、D地点(谷底)の気温上昇の開始時刻が遅くなったと考える。その間、C地点とD地点の間には逆転層が存在し湿度は100%であった。D地点またはその上空のC地点との間に霧(雲)が発生していたと推測する。
A 谷風が吹いていた9時〜16時の間、気温の逆転層は、山頂のA地点と杓子平のB地点の間に断続的に現れた。これは、谷風の発達に伴う上昇気流により、雲の多いB地点の大気の状態を反映したためと考える。ただし、B地点を含め、各地点の相対湿度は50%程度である。これは、雲が多くても雲の中でなければ湿度は100%近くにならないためだと推測する。

5)あとがき
 今後は、これらのデータを統計的に整理して、山岳の夏山気象の一般的な傾向を明らかにしたいと考えている。また、笠ヶ岳と黒部五郎岳の山頂の気温データを比較すると、午前中笠ヶ岳のほうが急激に気温が上昇するという結果が出た。このことが、一般的傾向なのか確かめるため、もう一夏、観測する予定である。海の影響があるかもしれないので、できれば海に近い、立山か薬師岳にもセンサーを設置したい。