ひだ地学78号 2000年8月19日発行   ホーム 目次

書評「中部・近畿・中国の火山」築地書館 2,000円+税

中田 裕一

 本書は、「日本の火山全6巻」の1冊です。取り上げている火山は、焼岳火山、乗鞍火山、御嶽火山、白山火山、神鍋単成火山群(近畿)、大山火山(中国)、三瓶火山(中国)です。
日曜の地学シリーズと同じく、フィールドガイドとして執筆されています。本の大きさもB6版と小さくて、本を片手に露頭や地形を確認しながら登山できます。
 本の構成は、中部・近畿・中国地方の火山の解説を行い、その後「噴火のメカニズム」と「噴火の予知」の簡単な解説があります。そして各火山の観察ガイドの順です。
 この本の良い点は、現地観察する一般の人の立場に立って執筆してある点です。具体的には次のようです。
@ 各火山へ出かけるときに必要な国土地理院の地形図名が記してある。
A コース図や地質図や写真、場合によっては展望図を多用してある。
B 各火山への交通機関や、観光案内所の連絡先が記してある。
C登山に関しての注意事項や、観察に適した季節が書いてある。
D火山の一般的な事柄(噴火のメカニズムや予知)の解説がある。
E火山の用語解説がある。
F火山以外の史跡や風景に関しても簡単な解説がある。
G参考文献がページ、巻号まで論文と同じように示してある。
 私は、焼岳、乗鞍岳、御嶽、白山の4つの火山に登ったことがあります。この本の写真や図を見ただけで、登山を思い出しながら楽しく読むことができました。また、風景や岩石を何も考えず眺めていたことを知りました。
 飛騨の火山について、この本の感想を次に記します。
@ 焼岳火山:溶岩ドームが崩壊に伴う小規模な火砕流は、火山の裾野を急斜面にするといいます。焼岳は、雲仙普賢岳の活動に似ているという説明はなっとくできました。
A 乗鞍火山:火山砂中の空隙は植物の痕跡であり、火山灰がゆっくり堆積したことを示すそうです。このようなことはこのガイドブックを読んで初めて知りました。山頂剣ヶ峰火口の権現池の飛騨側は、溶岩堤防であることがわかりました。
B 御嶽火山:火口から噴出した岩塊の割れ目は、噴出当時、冷えるにしたがって内部のガスが発泡してフランスパンのように膨れてできたそうです。ぜひ実物を確認したいものです。
C 白山火山:山頂部には4枚の噴出物があるが、それぞれどの噴火口から噴出したかわかっていないようです。また湿原の降下火山灰層から白山の噴火の歴史をたどれることを知りました。白山は噴火の可能性がある火山のひとつです。
 各火山の噴火の年表を比較できる形で示してあったら、各火山活動の年代的なことが比較できて面白いと思います。さらに勝手な意見ですが、立山火山、湯ヶ峰火山やアカンダナ火山などを調査している執筆者も加えて、中部の火山として独立してほしかった。また、温泉など観光的な要素も加え、中部地方の広域の地図も示し、オールカラーならもっとよかったような気がします。
 しかし、飛騨の火山が4つもあるので買い得感があります。地学研究会の巡検でも活用したいものです。火山に興味があれば一般の愛好家でも利用できる一方で、地学の学生などは参考文献を利用してさらに学習を深めることができます。何よりも、火山現象の実物を見て理解できます。地学教育や学校登山のときに活用したいものです。