岐阜県丹生川村の森部層から産出する ペルム紀腕足類化石 |
三宅 幸雄
1.はじめに |
第1図 腕足類の構造(湊 正雄ほか、1981古生物学各論3より抜粋) | 第2図 化石産地位置図と森部層柱状図 (1:頁岩, 2:砂岩頁岩互層,3:砂岩,4:礫岩,5:石灰質基岩の礫岩,6:石灰岩) なお、化石産地位置図(第1図)と森部層柱状図(第2図)は堀越ほか(1987)と田沢ほか(1993)の図を利用した。 |
2.森部層について 丹生川村森部地域には飛騨外縁帯の地層が分布しており、それらは呂瀬層(デボン紀前期,後期),荒城川層(石炭紀中期〜後期),森部層(ペルム紀前期〜中期)に分けられる。森部層は頁岩,砂岩を主体とし、一部、石灰岩,礫岩を含む。化石は主に森部層下部層の中部に集中し、ウミユリ,コケ虫(Polypora, Fenestellaな ど),腕足類,二枚貝,四射サンゴ,頭足類、巻貝、三葉虫(Pseudophillipsia),植物などの化石を含む。また、森部層下部層の下部からは、石灰岩からフズリナ(Pseudofusulina fusiformis)が産出し(Yamada & Yam-ano,1980)、森部層中部層からは、砂岩よりフズリナ(Monodixodina sp.)が産出する(田沢ほか,1993)。 3.腕足類とは 腕足類とは、海生無脊椎動物の仲間である。古生代カンブリア紀前期(約5億7千万年前)に出現し、古生代に最も栄え、現在も衰えてはいるが生存している。外観は二枚貝に似ているが、二枚の殻の形が異なり(茎殻と腕殻に区別される)、複雑な内部構造を持っていること から二枚貝ではなく、むしろ、コケ虫に 近い動物である。基本的には、二枚の殻の結合部分にある穴から、肉茎が伸び、その先端で岩や海底の小石,ウミユリなどに付着して固着生活し、プランクトンをエサとしている。そのため、分散移動が制限され、動物群の地域的特性が比較的はっきりしているので、古生物地理学的資料として適している。 4.森部層の腕足類化石 腕足類化石は、森部地域の数地点に産出する。いくつかの産地のうち、A地区とC地区について述べる。(第2図 参照) (1)A地区の腕足類化石 A地区は石灰質頁岩層を主体とする。ここからはコケ虫(Polypora, Fenestella)が多産し、その他に腕足類,二枚貝,ウミユリ,四射サンゴ,頭足類,巻貝,三葉虫(Pseudophillipsia)などが産出する。腕足類は、ほとんど押しつぶされた状態で保存されているが、殻の破損はほとんどない。小型のものが多く、殻は離れてしまっていることが多い。合殻のものも少ないが産出する(第6図参照)。これらの腕足類は、平板状のコケ虫であるPolyporaやFenestellaが密集する頁岩層から多く産出する。一方、棒状のコケ虫を多産する石灰質頁岩層からは腕足類の産出が少ない。それらの二つの層は数10p間隔で交互に重なる。また、コケ虫の遺骸は壊れやすいが、それがほとんど壊れずに残っていることから、現地性(堆積された場所に生息していたことを指す)か、または、ごく近くに生息していたものが流され堆積したものと思われる。 次にA地区から産出した代表的な腕足類化石を示す。なお、温暖系(テチス型)と、寒冷系(ボレアル型,両極型)の区別は、田沢(1992)を参考にした。また、図版1にA地区から産出した腕足類化石をスケッチした。 Storophomenida (ストロフォメナ目) Davidsoniacea (ダビデソニア上科) Derbyia sp.(寒冷系) Chonetacea (コネーテス上科) Chonetes sp. Chonetinella sp. Mesolobus sp. Productacea (プロダクタス上科) Transennatia gratiosa(温暖系), Urushtenoidea sp.(温暖系) Cancrinella sp.(寒冷系),Waagenoconcha sp.(寒冷系) Linoproductus sp.(寒冷系),Permundaria sp.(温暖系) Lyttoniacea (リットニア上科) Leptodus nobilis(温暖系) Spiriferida (スピリファー目) Spiriferacea (スピリファー上科) Spiriferella sp.(寒冷系) Reticurariacea(レティクラリア上科)Phricodothyris? sp. Rhynchonellida (リンコネラ目) Stenoscismatacea(ステノスキスマ上科)Stenoscisma margaritovi(寒冷系) Atrypida (アトリパ目) Retziacea (レッチア上科) Hustedia sp.(寒冷系) |
第3図 A地区腕足類化石の個体数と割合 | 第4図 A地区腕足類化石の個体数による目と上科の割合 |
第5図 A地区腕足類化石の個体数による温暖系と寒冷系の比率 | 第6図 A地区腕足類化石の一枚殻と合殻の比率 |
A地区から採集した腕足類化石標本の内容を第3〜6図まとめた。これらの円グラフは筆者が採集して標本にしたものを、個数を元に集計してまとめたものである。よって、若干の差はある。一つのデーターとして考えて頂きたい。 A地区は、少なくとも15属以上の腕足類を産出し、その中でも温暖系の小型のTranseーnatia gratiosaやUrushtenoideaを多産する(第3図)。そのため、温暖系の割合が4属で48.5%と多く、寒冷系は6属で34.2%となっている(第5図)。このことから、A地区に堆積した腕足類は、やや、温暖な海に生息していたと考えられる。(つづく) (2)C地区の腕足類化石 C地区はA地区とほぼ同層準と思われ、硬質細粒砂岩を主体とする。この層からは、腕足類化石を主体とし、他に二枚貝,頭足類,植物の破片などの化石を産出する。腕足類の殻は、それほど押しつぶされていないが、殻が溶けていることが多く、雌型や内型が多い。また、大型〜中型のものが多く、殻は離れてしまっていることが多い。合殻も少ないが産出する(第10図)。保存状態は普通で、殻の破損はほとんどない。これらの腕足類は一般に散在的に産出するが、塊状に密集することもある。これらのことから、付近に生息していたものが流されて、大型〜中型の腕足類がC地区に堆積したものと考えられる。また、植物の破片を少量、産出することからC地区は陸地に近い場所だったと言える。 下記にC地区から産出した代表的な腕足類化石を示す。また、図版2にC地区から産出した腕足類化石をスケッチした。 Strophomenida (ストロフォメナ目) Davidsoniacea (ダビデソニア上科) Derbyia sp. (寒冷系) Productacea (プロダクタス上科)Yakovlevia kaluzinensi(寒冷系), Waagenoconcha sp.(寒冷系), Linoproductus sp.(寒冷系),Permundaria sp.(温暖系) Spiriferida (スピリファー目) Spiriferacea (スピリファー上科)Spiriferella sp.(寒冷系)Neospirifer sp.(寒冷系) |
第7図 C地区腕足類化石の個体数と割合(属) | 第8図 C地区腕足類化石の個体数による目と上科の割合 |
第9図 C地区 腕足類化石の個体数による温暖系と寒冷系の比率 | 第10図 C地区腕足類化石の一枚殻と合殻の比率 |
C地区から採集した腕足類化石標本を第7図〜10図にまとめた。 図版 1 (すべて実物大)(A地区のみ) |
図版 1 | 図版 2 |