ひだ地学72号 1999年4月22日発行   ホーム 目次

飛騨における自然放射線の研究

寺門 隆治・吉城高校地学部

1 はじめに
 昨年、吉城高校地学部では、「放射線計測器はかるくん」を用いて古川盆地や跡津川断層などで放射線量を測定しました。放射線にはα、β、γ線があります。はかるくんは、放射線のうちγ線を測定する機器です。測定値は、μSv/h(マイクロシーベルト毎時)で表されます。

2 花崗岩を構成する鉱物の自然放射線量
 まず、学校の岩石標本の放射線量を測定してみました。やはり、放射能鉱物は他の岩石鉱物標本に比べ全体的に値が大きいことがわかりました。中でもサマルスクの値が大きくなりました(グラフ1)。
 一般の岩石鉱物で自然放射線量が大きいものは花崗岩類でした。そこで、花崗岩類の中でどの鉱物の影響で放射線量が大きいのか調べてみました。つまり、正長石がピンク色の黒雲母花崗岩を破砕し、ふるい分けした後、石英、正長石、斜長石、黒雲母の4鉱物を拾い分け、それぞれの自然放射量を測定しました。
 鉱物の放射線以外の影響を小さくするため、プールの水の中(バックグランドの遮断効果が大きい)で測定しました。その結果、4鉱物のうち黒雲母が最も高い値でした(グラフ2)。この理由は、黒雲母が、放射性元素のウランやナトリウムを比較的多く含むジルコンという鉱物を含むためと予想しますが、今回はジルコンの含有を確認するまでは至っていません。

3 古川盆地周辺の自然放射線量
 古川盆地の平地部を100mメッシュに区切り、メッシュごとの自然放射線量を測定しました。さらに放射線量と地質との対応も調べました。
 古川盆地は、北東から南東に細長くのびています。測定の結果、盆地の中央、やや南東寄りあたり(吉城高校近く)の放射線量が大きく、中央付近から北西側全般と南東端部分の放射線量が小さくなりました(グラフ3)。
 つぎに、盆地周辺の地層と放射線の関連を調べました。盆地周辺には、大きく分けて3種類の中生代の地層が分布します。1つは、泥岩砂岩を主体とする手取層群。2つめは、岐阜県に広く分布し、主に盆地の南側に分布する濃飛流紋岩類、3つめは、盆地の北側および中央付近に分布する船津花崗岩類です。この船津花崗岩類は、盆地北側の船津花崗岩類と、中央付近の広瀬花崗岩類に細分されます。
 地層の放射線量は、広瀬花崗岩の値が大きく出ました。また、盆地内の平地で値の大きかった周辺に広瀬花崗岩が多く分布します。以上から、堆積物に覆われた地域でも自然放射線量は地下の基盤岩の影響を受けるのではないかという結論になりました。


4 跡津川断層での自然放射線量
 地質構造と自然放射線量との関係を探るため、江名子断層上と跡津川断層上で放射線を測定しました。江名子断層では測定値と断層の関係は見出せませんでしたが、跡津川断層では以下の結果になりました。
 自然放射線量の測定は、跡津川断層のほぼ中央部、吉城郡宮川村野首地区で行いました。断層をほぼ直角に横切る方向の4側線と、平行な3側線をもうけました。測定すると、断層を直角に横切る側線で違いが出ました。つまり、断層上で自然放射線量の値がピークに達し、周囲に比べ0.01マイクロシーベルト毎時高くなりました(グラフ4)。
 断層上で測定値が大きい理由として、断層破砕帯付近からのラドン等の影響が予想できます。また、トレンチ調査の結果、断層崖の北側に突き上げているという森安花崗岩の影響もあるかもしれません。しかし、グラフ4の側線Aを見ると、断層の北側全体が高いわけではありません。

5 今後の課題
 以上のことから次のような問題意識を持っています。まず、黒雲母の自然放射線量が高い理由はジルコンによるものかどうか調べること、古川盆地の地下構造は周囲の地層で推定しましたができればボーリング資料等で検証すること、そして、できるだけ多くの断層で放射線量を測定して相互に比較することです。さらに跡津川断層上で測定値が大きくなる理由としてラドンの影響を予想しましたが、ほんとうにラドンが検出されるか確かめたいと思います。もし検出できれば、断層活動、つまり地震活動と自然放射線量の関係が明らかになると考えています。