古川盆地を伝わる音の研究 |
寺門 隆治・吉城高校地学部
第1章、はじめに (2)結果 交通量とBGNとの間には、正の相関関係があることが分かった。(グラフ2) (2−1)目的 BGNは、気象条件とどのような関係があるのだろうか。気温の鉛直分布との関係を調べてみる。気温分布は、安峰山山頂の気温と古川小学校での気温の差で求める。 (2−2)結果 はっきりとした相関が見られないが、気温差が−2〜−3℃(気温減率約−0.5℃/100m)の時、BGNの値が大きいことが分かる。(グラフ3) つまり、盆地内の大気の鉛直分布で、気温減率が約−0.5℃/100mになると、国道41号線方面からの音の伝わり方が、最も伝わりやすい位置関係になるものと考えられる。 第5章、霧の中での音速 第1項 室内実験 (1−1)目的 霧の中での音速はどうであろうか。ドライアイスを用いて、室内実験で確かめてみる。 (1−2)結果 データはすべて管内温度29.2℃のものである。 音速を測定してみると、霧の中では、V=3800×0.091=345.8(m/s)であった。一方、霧の無い状態では、X=3800×0.0948=360.24(m/s)となり、ドライアイスで発生させた霧の中では、およそ4%音速が減少することが分かった。 第2項、実際の霧の中での音速測定 (2−1)目的 実際の霧の中で音速を、超音波距離計を用いて測定してみる。
視程と測定された距離との間に、明らかに負の相関が見られる。 つまり、霧が濃くなるほど、音の伝わる時間が遅くなることが分かる。(グラフ4) 霧の中での減速率を求めてみると、最も速く伝わったのが0.0945秒、最も遅かったのが0.0951秒なので、およそ0.6%遅くなっていることが分かる。 この違いは気温差がおよそ3〜4℃の場合での音速の違いに相当する。朝霧の発生は、盆地内に伝わる音に大きく影響し、霧の濃度と音速との間に負の相関があることがわかった。 第6章、朝霧の中での音の伝わり方 (1)目的 前章で、霧の中では音速が小さくなることが測定された。このことをもとに、朝霧の発生している時と、そうでない時での盆地内の音の伝わり方について検証してみる。 (2)結果 気温差が小さい時、(−2℃付近〜−1℃)のBGNの値が小さいことが分かった。 はっきりとした結論は出せないが、霧の影響により霧の中に入った音が、上方に屈折して逃げていつてしまい、BGNの値が小さくなったものと考えられる。 第7章、蝉の鳴き出す時間 (1)目的 今回の研究において、BGNの記録を取っていたところ、7月に入った頃から朝4時〜5時の間で急に値が大きくなり、10分〜20分ほど続き、急にまた小さくなる奇妙な変化をとらえた。 この原因は、徹夜観測の結果、ニイニイゼミが一斉に鳴き出すことによることが判明した。この鳴き出しの時間を詳しくみると、毎日少しずつずれているようなので不思議に思い調べてみることにする。 (2)結果 気温の変化と、鳴き出しの時刻には相関関係がみられない。天気との関係では、雨天の翌日に蝉の鳴き出す時間が前日よりも約10分〜20分早くなる傾向が見られる。また、日の出の時刻との関係を調べてみると、はっきりとした関係がみられ、蝉の鳴き出す時刻は、日の出前約10分であることが分かった。(グラフ5) 第8章、まとめ (1)まとめ 研究により以下の結果を得た。 @ 古川盆地で聞こえるBGNの音源は、1日を通してほとんどが国道41号線を通過する車によるものである。 A 安峰山山頂と盆地底部の古川小学校との気温差が−3℃弱の時(気温減率約−5℃/100m)、BGNの値のが比較的大きくなる傾向がある。 B霧の中で音速は小さくなり、霧が濃いほど遅くなる割合が大きい。 C霧の発生時には、盆地内のBGNの値が小さくなる。 D明け方近くに、ニイニイゼミの一斉鳴き出しがあり、その時刻は、ほぼ日の出前10分前 である。また雨天の翌日は、鳴き出す時刻が早くなる傾向がみられる。 (2)今後の課題 @ 1日を通じて基準となる音源を探し、国道41号線の騒音を頼りに研究を進めてきた。しか し、国道からの騒音は線上に位置し、点ではないことから、基準となる音源としてあま りふさわしくなかったと思われる。夜間でも、町民の方々に迷惑のかからないような、 基準となる音源はないものだろうか。 A 音の伝わり方の重要な要素として風がある。今後、風の影響に関する研究が、最も重要である。 B せっかく霧の中での音速が測れたにもかかわらず、今年は霧の発生が少なく、霧の影響について十分考察できなかった。これからの季節、発生の時期を迎えるので、是非研究 してみたい。 C 最後に、蝉の鳴き出す時刻について、地学部ではあるが、環境問題の1つとして今後さ らに研究してみたいテーマである。 (3)参考文献 ・下畑真理、村田暢子、田中恵美(1982):気象とことわざ、吉城高校地学課題研究(V) ・吉城高校地学部(1985〜1987):飛騨の朝霧の研究(PartT〜V) ・ 吉城高校地学部(1993):朝霧の正体に迫る ・ 五十嵐靖則(1994):音速の新しい測定法、SUT、東京理科大学出版会 ・日本音響学会(1996):音の何でも小事典、講談祉 ・唐澤誠(1997):音の料学ふしぎ事典、日本実業出版社 ・近角聡信、飯利雄一、矢津健三、他5名(1995):物理の世界、東京書籍 |